Sun.M(サンム)ソーシャルビューティサービス
登録美容師 久保山一美(くぼやま・ひとみ)
はじめに
私は、千葉県は九十九里浜まで車で30分程に位置した山武市で福祉美容師として活動しています。
訪問美容を始めたきっかけは、以前美容師としてサロンワークを10数年していましたが、子育てなどで一時現場を離れておりました。子どもも手を離れ、また販売の仕事にも行き詰まりを感じ、転職を考えていた時、主人に「訪問美容師として働いたら」と言われました。しかし現役からすでに10年がたち技術に不安を感じていました。また訪問美容についても何も知りませんでした。
インターネットで訪問美容を検索して山野学苑主催の美容福祉技術講座を知り、すぐに受講の申し込みをしました。それが今から5年前、平成22年4月の事です。
6月には念願の福祉美容師の資格を頂くことができました。しかし訪問美容の現場を知らない、ましてや介護の現場など無縁の世界にいた私が本当に、福祉美容の仕事ができるのだろうかと自問自答していました。そして出した答えは、「現場を知ろう」と思い、山野で意気投合した富士市の菊池さんを訪ね、訪問美容の現場に同行させて頂くこととなりました。彼女はすでに訪問美容の経験もあり、介護福祉士でもあったので、とても心強い先輩でもありました。この経験が私を福祉美容師としての心構えをしっかり植えつけることになりました。
八方塞がり
訪問美容の活動を実行すると決意して最初にとった行動は、地元保健所に訪問美容の登録確認に行きました。
すると、特に登録の必要がないとのこと、衛生管理を徹底すればいいとの返事が返ってきました。第一関門クリア。つぎは訪問美容開始のお知らせと料金表などの手作りチラシを作り、挨拶状と一緒に山武市、近隣の高齢者施設や介護事務所などに郵送しました。そして包括支援センターに出向き訪問美容の開始を伝えたところ、職員の態度は関心を示さなかったのです。その瞬間道を閉ざされた気持ちになりました。包括支援センターに行けば道が広がると思っていただけに、現実の厳しさをここで知ったのです。
試行錯誤
意気揚々としていた私は、現実の厳しさに、訪問美容を続ける意欲も失いつつありました。そんな時ボランティア活動を思いつきました。「待っていてはダメだ!とりあえず自分から動こう!自分が出来ることから始め、訪問美容につなげよう」……そんな思いで社会福祉協議会に行き、「高齢者に、ハンドマッサージ・メイク・フェイシャルなどの美容福祉サービスを提供します」という内容でボランティア登録しました。
登録してしばらくすると、高齢者30名ほどの集まりで、メイクや美容に関する講座の依頼がありました。予想していなかった講座の依頼でしたが、考えた末に、フェイスマッサージをすることにしました。30人を私一人で挑む内容をあれこれ考え、歌って覚えるフェイスマッサージを考案しました。そしてテキストなども作成し何とかその講座を終えることができました。この時の講師料3,000円。訪問美容で初めての収入でした。何よりも皆さんに喜んでもらえたことがうれしく感じました。
訪問美容とは違うけれど、こんな形の福祉美容があってもいいのではないかと私なりに解釈しました。この講座が美容福祉サービスの最初となりました。しかしこの頃はまだ漠然としていました
訪問美容PR作戦開始
社協の依頼をきっかけに、ボランティア活動から、訪問美容につなげていこうと考えるようになりました。地元総合病院、外来待合室でのボランティア活動、社協主催健康福祉まつりや市民活動フェスタなどに参加して、体験料500円でハンドマッサージの施術を行いました。
チャンス到来>新たな可能性
山武市には「交流センターあららぎ館」という施設があります。市の出張所のほかに交流サロンや会議室などがあり、とてもきれいで、環境もいい公的施設です。以前からこんな処でハンドマッサージができたら、癒されるだろうなと思っていました。それが思いのほか早く実現することになりました。
病院の活動が終わり、今後について思案をしていた時、知人が交流センターの管轄である、市民自治支援課の課長に私の活動を勧めてくれたのです。支援課でも交流センターに人を集めるような仕掛けを模索していましたので、お互いの思いが合致しました。
試験的に1年間、月2回ハンドマッサージのボランティア活動をすることとなりました。平成24年3月の事です。
無償のハンドマッサージは評判を呼び、午後1時から4時までの3時間で10人以上の利用者が待つ状態が続きました。一人でも多くの人をと思っていても、一人にかかる時間は15分。1時間に4人が限界です。5人目は、1時間待ちです。それでも待っていました。そんな状況が半年も過ぎ「このままではいけない。私一人では限界がある、誰か一緒にやる人を探さなければ」と思っていたところ、知人が「ハンドマッサージ講座をやって人を育てたらいいのでは!」とアドバイスをしてくれました。
<ハンドリフレクソロジスト> セルフハンドマッサージ講座開始!
いざ講座を始めるとなると、今まで行ってきた施術に少し不安と疑問がよぎりました。その頃の施術方法は美容師としてのハンドマッサージ。関連の書籍に目を通し参考にしていましたが人に教え、しかも多少でも受講料を頂くのにそれでいいのだろうかと考えていました。
そこで、インターネットで検索すると、ハンドマッサージではなく、「ハンドリフレクソロジー(反射区療法)」という施術方法がありました。これだと思い、すぐさま受講を申し込みました。施術方法は今までの手技と多少の違いはありましたが、反射学という理論に基づき生理解剖学、筋肉、リンパや経絡にも関連性が深いというものでした。これなら自信をもって受講者に伝えることができる。これによりハンドリフレクソロジストという資格を得たのです。
美容福祉と健康
知識と資格を得たことで、ハンドマッサージに対する意識が今までとは明らかに変化をしました。気持ちがいいものから健康な体づくりに有益であることがわかりました。セルフハンドマッサージ講座にむけて、市の広報誌に受講者の募集を掲載したところなんと、34名の応募がありました。この講座に興味を持つ人がいるのだろうかと思っていたので、この数字にはビックリしました。この事で皆が健康にとても深い関心を寄せていることがわかりました。高齢者などに対しての福祉美容が訪問美容だとするならば、シニア世代などの福祉美容はハンドマッサージがなり得ると確信しました。
健康であることが美しさの基本。そう考えると益々美容福祉はどうあるべきかを、私なりに考えるようになりました。
個人からグループ活動へ!
個人活動に限界を感じていたころ、1本の電話が入りました。その人は「今は違う仕事をしているが元美容師で、訪問美容に興味がある」との内容でした。私はその人に会い、訪問美容の現実を語り、その人もまた、私と同じように厳しさを感じていました。私は現状とボランティア活動の必要性を説明したところ、快く承諾の返事を頂きました。それにもう一人知人を紹介してくれたのです。その人もまた元美容師。しかも山野の福祉美容の講座を受けていました。私たちはそれぞれの熱い思いを語り、まずはボランティア活動。そして一般の人にも美容師として出来るサービスをワンコインで提供しよう。そして訪問美容を皆さんに知ってもらおう!「美容福祉サービス」のスタートラインです。
Sun.Mソーシャルビューティサービス・始動!
団体名を「Sun.Mソーシャルビューティサービス」と名付けました。1人から3人になったことで、活動の可動域が広がりました。2013年9月に市民団体として登録も終え、半年も過ぎた頃にはメンバーが7人になっていました
活動内容もレストランや、ホテルなどに企画を持ち込み癒し体験会と称したイベントなども開催するようになりました。
<新たな挑戦!> 美容福祉がコミュニティサービスに!
私たち7人が持っている資格は、美容師が3人アロマセラピスト・キネシオロジスト・リフレクソロジストそして調理師ととてもユニークなメンバーです。それぞれの資格がのちに私たちの強みになりました。 市の施設での活動も1年がたち、再契約をすることになりました。個人ボランティアでハンドマッサージを行っていた時は常に10人以上の利用者がいたのに、団体に替わり500円の体験サービスになった途端、利用者が1,2人になりました。(タダは強し!)
しばらくはそんな状態が続き、そこで改善策を講じました。待っても人が来ないなら、来るような環境を作ろう!どうしたら集客できるのか?何をすればいいのか?そこでピンときました。メンバーそれぞれのスキルを生かそう。月に1度人が集まるようなイベントを開催してみよう。
そして体験型交流イベント「あららぎコムサ」が誕生しました。ハンドマッサージのほかにアロマクラフトやハンドクラフトのワークショップ、地元農家さんの野菜販売やパンの販売。そしてコミュニティカフェなどの運営が可能となりました。
地元パン屋さんの販売
ランチサービス500円
足のリフレクソロジー1.000円
飛躍 訪問美容へのつながり
昨年8月から「あららぎコムサ」を開始してしばらくすると、行政関係者やメディア関係者が視察に来るようになりました。またそこでの出会いの中にケアマネージャーや福祉関係者も体験に来るようになりました。
団体を立ち上げて今年(平成27年)9月で2年がたちます。本当にこれでいいのかと問いながら、続けてきた美容福祉サービスが、昨年末ぐらいから周りから認められるようになり、5年前に見向きもされなかった包括支援センターから「認知症家族を支援する会」でのセルフハンドマッサージ講座の依頼。社協から夏休みこどもボランティア体験の依頼。市民自治支援課からはスリランカ政府職員の浴衣の着付け依頼。教育委員会生涯学習課から活動説明会など、行政からの依頼や問い合わせが入るようになりました。そして、山武市「市民提案型まちづくり助成金」に美容福祉サービスを提案し助成金を得ることもできました。助成金をもとに今年8月22日あららぎコムサ1周年記念、「第1回みんなの夏フェス」inあららぎというビッグイベントを開催することができました。
おわりに
訪問美容をめざし5年がたちました。訪問美容のPRで始めたハンドマッサージのボランティア活動が、今では美容福祉サービスとして高齢者や支える家族そして地域に認知されつつあります。また訪問美容を依頼するのはご本人より、家族や福祉関係者が主です。地域に認知していただくことで訪問美容へのつながりを見いだせることを、美容福祉活動を通して強く感じました。実際に訪問美容の依頼も以前は、月4,5回程度だったものが、今年に入り在宅訪問が月15回に施設訪問も3か所に増えました。
今後もボランティア活動、美容福祉サービス、コミュニティサービスの3つを柱として、訪問美容が事業として成り立っていけるよう関係各所に提案をしていく予定です。 最後にこのような発表の機会を与えてくださり、ありがとうございました。私の今までの経験が何かしらのヒントになれば幸いです。