
NPO全国介護理美容福祉協会は、これから訪問理美容に取り組む理美容師のために、訪問理美容の事例集を制作しました。登録美容師のみなさんが、各地で行っている5つの事例について、訪問開始から終了までを同行取材して、制作したものです。
事例は「①高齢のお客様の椅子での施術(自宅)=東京都・河口美香」
「②高齢のお客様の椅子での施術(施設)=東京都・佐野美恵子」
「③障害をもつお客さまの椅子での施術(自宅)=愛知県・山下玲子」
「④重度心身障害をもつお客様の車椅子での施術(施設)=愛知県・西尾栄次」
「⑤高齢のお客様のベッドでの施術(施設)=岩手県・鵜浦智美」です。
今回の集いでは、①③⑤の事例を担当した河口美香さん、山下玲子さん、鵜浦智美さんの3人の登録美容師が報告しました。
事例1:高齢のお客様の椅子での施術(自宅)=東京都・河口美香
ご主人、奥さま、息子さんの3人家族のAさんへの訪問美容を行っています。この事例は、奥さまへの訪問美容の様子を記録したものですが、ご家族とのお付き合いの経過を通じて、感じていることを報告します。
息子さんは2016年6月ごろ、50代前半で他界されました。脳梗塞で右麻痺があり、車イスでのカットでした。身体の傾斜、震え、言語障害などがありました。
ご主人は、息子さんが他界されて以降、 認知症が発症し急速に進行しました。息子さんが他界された4カ月後はカットができましたが、それ以後は急に大声を出したり引きこもりがちになり 、撮影の日も2階に籠った状態でカットができませんでした。
奥さまは、健康状態は良好ですが、家族の介護が必要なため、訪問美容を利用されてきました。息子さんがお亡くなりになられてからご主人の状態が更に悪化したため、撮影当日も精神的にかなり疲れている様子で、撮影後もしばらく悩みを聞きました。
それから4カ月後に奥様も入院することになりました。その病院は偶然にも当店の訪問先で、それからは毎月院内でカットすることになリ、ベッド上ですいコームを使用しています。現在も入院中です。コミュニケーションが困難な状態ですが、いつも病室のベッド脇にもう一人の息子さんから感謝の言葉が綴られたメモが置かれており、信頼してお任せしてくださっているお気持ちを感じました。奥さまが入院されてからご主人様も同じ病院に入院することになりましたが、その後お亡くなりになられました。
障害をもつお客さまの椅子での施術(自宅)=愛知県・山下玲子
ご利用者様のデータは、18歳、女性、車椅子・酸素チューブ常用です。訪問施術及び注意点は、事前に、ご利用者様の体調、座位可能時間や注意点、駐車場、日時の確認を済ませます。
施術場所は、ご自宅の方に施術可能な場所をご低提供頂きスペースを確保します。この際、髪の毛が飛び散らない様に、足元はブルーシートを敷き、周りの家具等は養生シートでカバーします。施術時は、自分の足に髪の毛を付けたり施術後のお部屋に落とさないように、専用スリッパを履きます。
ご利用者様の車椅子への移乗は、ご家族様にお願いし、施術中も体調急変等がある時に備えて、同部屋にて同席頂きます。
カットを始める前に、体調、カットスタイルのカウンセリング等をしてから始めます。この際、目線を揃える事で、安心感を持って頂きます。
タオル・クロス等を掛ける時は、酸素チューブに常に気を配り、ズレがないよう確認しながら、ご本人にも聞きながら準備を進めます。医療器具には細心の配慮が必要です。
施術中も気配りの声掛けを常にしながら、リラックス出来る会話をし、座位可能時間内でカットを終わらせる事が大事です。
施術後の移乗もご家族様にお願いします。
片付けは、丁寧に素早くブルーシートに包み上げ、持参したゴミ袋に入れ持ち帰ります。
事例5:高齢のお客様のベッドでの施術(施設)=岩手県・鵜浦智美
訪問美容を始めてから、今年で7年目になります。 今回、撮影協力していただいた施設は、ホームヘルパー2級の資格取得する際に、実習でお世話になったところで、初めて訪問美容に携わらせて頂いた施設です。そのため、モデルを引き受けてくださったお客様とは、長いお付き合いになります。
こちらのお客様は、以前は車いすでカットしておりましたが、数か月前に体調を崩しベッド上での生活になりました。いつも短かめのヘアスタイルの要望でしたので、身体の負担を少なく、短時間での施術ができるすいコ~ムを使用しました。
すいコ~ムは髪の毛を散らかさず作業ができるとても素晴らしい道具であると実感しております。私がすいコ~ムを使用するお客様は、ほとんどがベッ ド上で寝返りが困難な方です。
私が訪問美容を実施するにあたり気をつけていることは、お客様の状態を把握するために、施設の方やご家族とのコミュニケーションをしっかりとることです。特にベッド上での施術では沢山の危険が潜んでいるため、無理はしないよう施設の方やご家族様と協力し、安心・安全に施術できるよう心がけています。
山野学苑の「福祉理美容師養成コース」を受講し 技術や理論を習得したことで、お客様一人ひとりの「そのひとらしさ」を大切にし、訪問美容に対する素晴らしさとやりがいを感じながら、日々、携わら せていただいております。
それぞれの地域によって訪問理美容に対する理解や認知度が異なると思いますが、その地域に密着し進めていくことが重要だと考えています。
★「訪問理美容事例集①」DVDは、事務局にあります。視聴ご希望の方は、事務局までお問い合わせください。