私は岡山県で福祉美容師として活動しています。岡山平野の中央に位置する岡山市は、人口72万人の政令指定都市です。
北部には吉備高原の山並みが広がる水と緑あふれる自然環境や、温暖で晴れの日が多く、自然災害が少ないといった気候風土にも恵まれた、美しさと暮らしやすさを兼ね備える都市です。
降水量1㎜未満の日が日本一多いので【晴れの国おかやま】と呼ばれています。
岡山県は医療水準が高い県で「医療先進県」と呼ばれています。最先端の医療技術で高度な専門医療を行う大学病院、総合病院、専門病院が多くあります。厚生労働省の調査において人口10万人あたりの全国の比較では、病院・一般診療所数、病床数、医師数、看護職員数などで全国平均を上回っています。
福祉美容師の活動
私は、この岡山市県北の津山周辺に、片道2時間・月4回、訪問美容に通っています。
7年前から個人で訪問美容活動をしています。サロンは持たず、訪問専門での活動です。宣伝は特にせずに、口コミと施設職員さんとの出会いです。
県外に研修に行った際、施設関係者の方と一緒になり、後日、お仕事させていただけるようになることも何度かありました。
老人福祉施設などは1日滞在して仕事させて頂いているので、施設長はじめ、職員のみなさんとしっかりコミュニケーションができています。入所者の精神的な変化などについて、気がついたことをこちらからもお話していますが、逆に施設側から「〇〇さんの状態は、最近どう思われますか?」と問われることもあります。これも施設との連携の結果だと思います。
単に美容師として施設訪問するのではなく、高齢者や認知症の方の対応ができ、いかに施設の方にも信頼が得られるかがカギではないかと思います。
訪問美容をメインとして、個人的に施設の夏祭でのボランティアでの参加、敬老会での賀寿の方のヘアメイクのボランティア、医療機関での化粧・整容療法の研究の取り組み――等々、少しずつですが活動の幅を広げています。
その一つである医療機関での化粧・整容療法の取り組みも行ったいます。
私が一緒に取り組んだ研究内容について、歯科衛生士さんがエントリーし、今年6月の日本老年歯科医学会第29回大会の歯科衛生士部門優秀ポスター賞コンペティションファイナリストに選ばれました。
医療機関での活動
山野美容専門学校の入学式に保護者として参加した岡山の万成病院歯科医長の小林直樹先生は、山野正義総長の挨拶に感銘を受けて福祉美容に関心を持たれたそうです。
「美容師は外から,歯科は内側から高齢者をきれいにする。目指すものは同じなのではないか」という思いで、岡山県在住の登録美容師を紹介してほしいと山野学苑の関係者にお願いされ、私が紹介されました。
口腔も含めた顔面領域を外見的に整える「化粧・整容療法」によって、高齢者の心の健康にも貢献できる可能性があると考えられるということで、私も協力させて頂くことになりました。
取り組みの内容
万成病院または併設の介護老人保健施設に入所中の高齢者で,精神科医および皮膚科医が入院治療に影響ないと判断した女性認知症高齢者16人を対象として,2016年1月~4月に週1回,3ヵ月間,美容福祉師として化粧・整容療法を実施しました。実施内容は、普段私がしているままに自由にさせていただいています。基本セルフケアです。
【手順】
歯科衛生士が口腔衛生管理を行い義歯を装着→上肢・肩関節の可動域訓練→クレンジング
【セルフケア】チーク→ブローで仕上げ→ネイル
ネイルとブロー以外はすべて、まず本人にしていただいた後、私が手直しをさせていただきます。
【結果】
職員36人に対してアンケート調査をした結果は以下の通りです。
| 職場に笑顔が増えたと思いますか | 58% |
| 化粧をした患者を褒めたとき、仕事にやりがいを感じましたか | 61% |
| 化粧をした患者を褒めた時、あなたの接遇マナーに変化がありましたか | 42% |
| 化粧療法は、人としての尊厳を守るための一つの行為と思いますか | 83% |
| 美容師による化粧療法は、当院に必要と思いますか | 62% |
これらの結果から、化粧療法は患者だけでなく、施設職員の接遇マナーや介護負担度にもよい影響を与える可能性が示唆されました。
【今後の活動について】
当歯科医院が今回採用した顔面マッサージを含む本療法は、さまざまな効果が期待できると期待しています。そして今後の研究分野は以下のように考えています。
・本療法に関与する職種は、主として皮膚科医、臨床心理士、美容師、美容福祉師であったことから、これらの職種と一緒に研究を進める。
・研究内容は、摂食機能療法による栄養状態の改善が、顔面皮膚水分量や弾力性、爪の状態、スキンケアに与える効果に関する研究。
・顔面皮膚の機能と口腔機能との関連性について
・高齢者における見た目と口腔機能の関連性について
・病院における本療法による医療経済効果に関する研究
以上のような老年歯科医学における新たな研究分野の発展が期待できると考えられているそうです。
美容師から見た感想
病院や施設等での化粧療法の導入は、患者さんや入所者の方々が様々な人生を送ってこられたなかで効果も人それぞれです。
「その時、きれいになった姿を喜ぶ方」「昔若いころに口紅つけてデートしたことを毎回思い出される方」「顔がきれいになったので歯が汚いのが気になり急に歯磨きしたい、歯科に行きたくなったと言われる方」「気分がよくなり歌を歌いだす方」等々です。
それだけではなく、家族の方々も心の変化をもたらしてくれました。
普段塞ぎこんで、身だしなみもままならなかった高齢の夫人がお化粧をしたことによって、久しぶりに笑顔になり、ご主人が大変喜んでいるという家族の風景にも出会いました。
美齢ケア
医療関係者との交流は大変勉強になりました。福祉美容を行う上で、介護の知識、認知症の理解は不可欠です。美容師はいつも背面から鏡越しにお客様と対応しますが、化粧療法を含む美齢ケアでは、お客さまと対面で向き合います。向き合う自分を見てくれることが高齢者の安心につながるのではないかと感じました。
医療関係機関や従事者と連携することで、美容師の力をもっと発揮できるとともに、医療機関に美容師の活動を見てもらうことを通じて、福祉美容師の地位もさらに向上すると思います。
福祉美容は、高齢者、施設、家族の三つ者が「良し」とならなければならない難しさがあります。だからこそ、「美齢ケア」は、常にこの三者の満足と希望を実現する方向を目指さなければならないと思います。