今日は美容室がどのように地域との繋がりを深め、社会に美容福祉の重要性を認知していただくために活動をしているのかをお話させていただきます。
私は美容室に勤務しているときに美容福祉と出会い、将来に於いてその必要性を強く感じ2004年にバリアフリーの美容室として駅からは離れた住宅街と幹線道路に面した現在の場所を選び独立しました。
やりたいと思うことは幾つかありましたが、体は一つですから先ずはお店の売り上げを安定させることを第一に考えました。そしてスタッフの増加に比例して徐々に訪問美容にも力を入れ現在に至っています。またスタッフ募集時には訪問美容に興味がある方を要項に掲げ、入社後に山野学苑公開講座を受講していただくことで、美容師のライセンスに加え「美容福祉技術講習」を受講した美容福祉師という二枚看板で、お客様からの信頼も得ています。
当時、高齢化社会に何が出来るのかを深く考えていた訳ではありませんでしたが、自分自身が高齢者の立場になった時、暮らしやすい環境にするためには今から取り組んで行くべきだと思いましたし、美容福祉を学んでいたことによりそれに関連する物事にも眼が向くようになりました。
そこで今回は主に昨年の学会でもご紹介させていただいた3つの取組みについてお話させていただきます。学会誌をご覧になられた方は重複する内容になるかと思いますがご了承ください。
一つ目は「映画資料展」について
これは店の外で出会った当時82歳の男性高齢者との会話から始まった活動です。その方の夢は個人で所有する14万点を超す映画資料を展示する保管する映画資料館を作ることだと知りました。普段は人通りもない店先ですが、秋に開催されるお祭りと重なる定休日に店をギャラリーにし、多くの方にその方の夢を知ってもらうきっかけになればという思いで始め現在に至っています。
なぜ美容室と映画なの?とお客様も不思議に感じていましたが、映画は音楽やファッションだけでなく様々な場面で私たちの生活に大きな影響を及ぼし、その映画俳優のヘアメイクは私たち美容の仕事に大きく関わっているのです。
来場された方々は映画ポスターの前で、そのストーリーや当時の思い出話しで盛り上がる光景が多く見受けられました。
毎回テーマを決めて展示内容を変えていますが、特に時代劇のポスター展示には男性の高齢者が多く見受けられ男性高齢者の趣味を知る参考になりました。その他にも映画関係の仕事をしていた方など、開催を楽しみに毎年顔を出してくださる方も増えましたが、一昨年から映画資料を提供してくださっていた方のご都合で、花の写真や当店の活動などを紹介した写真展を開催していますが、やはり花が好きな方々が集まり、花情報の交換をしたりしながら、次回の散策コースを思い描いているようで介護予防にもつながります。また花の写真は花を見るために山歩きをしている方からお借りしたのですが、その表情は前出された映画資料の男性と同じくとても生き生きとされていました。高齢者の好みを知るにはその方々が過ごしてきた時代背景を知ることが大切だと気付かされました。
二つ目は「認知症サポーターケアシステム」の推進活動です。
「認知症サポーターケアシステム」とは「認知症サポーター」と「地域包括ケアシステム」を組み合わせた呼び方です。
これは2011年8月に行われた「第4回登録理美容師の集い」で初めて受講した認知症サポーター養成講座がきっかけとなりました。受講後これは私の地域でも必要な事だと思い、翌年2012年9月に八王子市高齢者福祉課と八王子美容組合に協力していただき、八王子美容組合主催での「第1回認知症サポーター養成講座」を開催し、同じタイミングの翌月2012年10月に開催された「八王子大学コンソーシアム」での、山野美容芸術短期大学の学生が発表した「認知症サポーターケアシステム」が採用され、八王子市では前の月に組合が行った認知症サポーター養成講座の実績から、八王子美容組合に対してその協力要請があり、その後、産学官一体となっての事業として現在39店舗の美容室で「認知症サポーターがいます」のステッカーが掲示されています。
三つ目は今年で5回目となる「ラン伴プラスはちおうじ」への参加です。
これは全国規模で開催されている「ラン伴」の八王子バージョンです。これは認知症の人と一緒にタスキを繋ぐ体験を通じて、認知症の人と地域がつながり誰もが暮らしやすい地域づくりを推進する活動で、第3回目から参加しています。
きっかけは、店の前をオレンジ色のTシャツを着た数人の方が通過したので声を掛けたことからでした。
その翌年にも店の前を同じTシャツ姿の方たちが通過したのでまた声を掛けイベントの案内をいただきました。そして次回は参加しようと考えていたある日、偶然立ち寄ったコミュニティカフェでオレンジ色のTシャツを見かけお話を伺ったところ話がどんどん膨らみ、当初は当店だけで参加するつもりでしたが、認サポの取組みと同じく多くの方に知っていただきたいという思いから、八王子美容組合にも協賛していただくことができました。
これにより医療や福祉に関わる方々とのコミュニケーションを図るきっかけに繋がり、高齢化社会が抱える課題に対し美容室がどのように関わろうとしているのかを知っていただく糸口になったと感じています。
またこのような活動により当店の実践する訪問美容に対する考え方をご理解いただくことに繋がるものだと考えています。
八王子市が行う高齢者に対する制度の利用については、これまでの取組みの中で個人として出来ることもありますが、地域との関わりの上では公的団体とのつながりも重要であると考えます。それは安心や安全を得るためには公的な保証が得られるからです。
例えば八王子の訪問美容では介護認定、要介護4.5(一部要介護3B2・C1・C2)の方に対して年6回までお客様の自己負担500円でカットすることができ、店には八王子市から4000円の補助金をいただける制度があります。この制度を利用できるのは組合に登録した美容室に限ります。
もちろん未加入であっても出張カットは出来ますが、お客様の立場になれば自己負担金額が少ないことはメリットに繋がります。また公的な機関が仲介している事により大きなトラブルを避けることにも繋がり、ケアマネージャーとの連携を図る上でも重要な要素になります。
このように地域で行われているイベントなどに積極的に参加することで地域の中での立ち位置が見え
基本的にサロンワークを中心とした営業で訪問美容は平日のみ行っています。
サロンには車椅子でご来店されるお客様も多く、時間をかけて商圏外からご来店いただく方も多く、その理由の一つには「ご近所で対応してもらえないから」とか、車椅子での利用が困難であったりと、言った言葉を多く耳にします。特に軽度の認知症の方であれば、周囲のサポートがあれば今まで通り長年通った美容室に通うことが可能ではないかと思います。
そこで一つの事例をご紹介します。
バスを利用してご来店される70代のA様。ご来店の数日前には予約のお電話をいただきます。予約当日、ある商店から電話があり「そちらのお客様が道順がわからなくなりこれからタクシーで向かいます」と連絡がありました。その数か月後も同じ事がありましたがA様はご来店され髪もきれいになられてお帰りになられました。施術中などに伺った話をまとめてみると、バス停を降り間違えてしまった事で方向が分からなくなったのではないかと考えます。対処法としては電話をいただいた店舗に出向きその事情を説明し、また同じことがあれば対処していただくようにお願いをしました。そしてバス停から当店までの地図をわかりやすく作りお客様にお渡しさせていただきました。
いま軽度認知症(MCI)の方が増加している現状がこのように身近に起こっているのが現実です。
ですから地域で暮らしやすい環境を整備することで、認知症になっても安心して暮らしやすい街づくりをすることが、サロンに通う常連のお客様がいつまでも自分らしい人生を楽しんでいただくことに繋がると考えています。
そのように何かしらの疾患や障がいのある方がサロンにご来店したり、訪問美容の依頼が増加することはリスクマネジメントの必要性も高まるためスタッフの教育も重要になります。今日の「集い」を含め、「学術集会」や「美容福祉公開講座の再受講」などで知識や技術を高め、現場ではお客様やご家族、または介助者の方に細かい注意点などを伺いながら施術しています。
一人の方を支えるためには多くの方々との協力が必須であると同時に、美容の持つ力が最後まで自分らしく生きる人生の活力になる事を伝えていくことが、私たちも幸せになる事に繋がる事だと考えています。