登録理美容師

暮らしに調和する理美容福祉を求めて

訪問理美容師の高い専門性と施設職員の役割
杉浦 ゆり・学校法人山野学苑評議員(看護師・美容師)
杉浦 ゆり・学校法人山野学苑評議員(看護師・美容師)

ごあいさつ

私は島田療育センターに勤務して36年になりますが、この数年間で理美容福祉の素晴らしさに接することが増えてきました。障害があっても、高齢になっても、病気療養中であっても、その方々の生活が本当に豊かになって、さらには生きる歓びにまで高まっていく人生となるように、理美容福祉は不可欠な存在感を持ってきていると思います。
 みなさんが取り組んでいらっしゃる理美容も、私どもの福祉も、人々の暮らしに調和するものでなければならないと思います。「調和」と同じような言葉に「溶け込む」があります。この違いですが、溶け込んでしまえば、どこに何があるかが分からなくなります。「理美容と福祉に携わる方々の専門性が独立した中で調和していくこと」が理想の形ではないかと考えています。
理美容と福祉の専門性がどうあるべきかをご一緒に確認していきたいと思います。

「島田療育センター」紹介

 島田療育センター(以下、当センターと略す)は、わが国で最初の重症心身障害児施設「島田療育園」として1961(昭和36)年5月に、東京都・多摩市に50床で開設しました。重症心身障害とは、重度の知的障害と肢体不自由を併せ持っているということであり、出生前後に何らかの原因で脳にダメージを受けたことが原因とされています。開設当初は児童福祉法の裏付けもなく、小児科・整形外科・精神科の病院として発足し暗中模索の療育が続きました。
開設から6年が経過した1967(昭和42)年に児童福祉法が一部改正され、ようやく正式に重症心身障害児施設(旧称)として歩みだしました。58周年目を迎えた現在の役割としては、大きくわけて「入所サービス」と「地域支援」があります。前者は、医療法による「病院」であると同時に、児童福祉法の「医療型障害児入所施設」と障害者総合支援法の「療養介護事業所」という枠組みの中で「児・者一貫した支援」を行っており、後者は短期入所(緊急一時入所・医療緊急入所)・外来診療・訪問診療・訪問看護・訪問リハビリテーション・デイケアセンター(児童発達支援センター・生活介護・放課後等デイサービス)、そして発達支援センターなどの役割を担っています。

利用者の生活支援

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利用者の生活支援

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1.利用者の生活支援

 現在、入所定床は233床で9歳~71歳(平均45歳)の利用者が6つの居住スペース(病棟)に分かれて生活しています。「病棟」という名称は残っていますが、ほとんどの利用者が一生涯を過ごす「暮らしの場」です。その暮らしが気持ちよく楽しく豊かな毎日になるよう、利用者主体を念頭に、必要な医療・看護・介護・リハビリテーションを保障するため、医師・看護師・介護福祉士・保育士・児童指導員・作業療法士・理学療法士・言語聴覚士・公認心理師など約500名の職員がそれぞれの専門性を発揮しながら連携協働し、個別性の高い支援に対応すべく日々努力を重ねています。
 当センターに入所している利用者の生活支援には、①基本的な生活介護と②変化と楽しみの保障という大きな枠組みがあります。(図1・図2)


 日々の生活が「安心・安楽・豊か」であるために、その人なりの健康が保たれ、その人なりの望みに近づくことができるように細やかな支援を行う必要があります。まさしく「個別性を重視したケア」となります。
 豊かな生活には、アクセントとなる変化や楽しみなどが不可欠です。年間を通じて、行事・活動をバランスよく計画し、学齢期には就学支援も行っています。
 かつて、当センターの生活支援においても「安全・清潔・簡便」であることを最優先にせざるを得なかった時代がありました。
 今ではノーマライゼーションの考え方と共に、「おしゃれは生きる楽しみ」と声高に述べ伝えながら暮らしを楽しむ時代となりました。身だしなみ(整容)においても、洗髪や整髪など日々の手入れのしやすさばかりを優先すると、利用者の思いや個性を尊重する視点がおろそかになってしまい、職員の都合や好みが色濃く出たヘアスタイルになってしまいます。ひとりひとりの身体的な特徴に配慮することは言うまでもありませんが、特に女性利用者には、おしゃれ感覚を大切にしたヘアカットを実現したいという思いが次第に強くなっていきました。

2.望ましい美容のあり方

~「びようしつ すぎなみ しまだてん」の誕生


当センターでは、長年にわたり女性利用者のヘアカットは美容師ボランティアによって行われてきました。半日で女性利用者全員(115名)の〝髪をカットしなければならない〟というあせりが先立ち、カットは「いつも通りに…。」と依頼することが多かったかもしれません。本当にその利用者が好むヘアスタイルなのか・短く管理しやすいカットを優先してはいないか、とジレンマを感じていたのも事実です。そして、いよいよボランティアの人員確保そのものが難しくなってしまったことに端を発して、有料の訪問美容師グループへと全面的に移行することになりました。「訪問健美理美容・すぎなみ様(以下、すぎなみ様)」との出会いです。そして、限られた時間の中で多人数の利用者のカットを行なっていた窮屈さや慌ただしさを解消するため、美容そのもののあり方を根底から見直すきっかけとなりました。
 利用者にとって姿勢的に辛いままカットを行なっていなかったか・カット後の入浴までに待ち時間がかかりすぎていなかったか・美容時間という雰囲気作りが乏しくなかったかなど、全体的に反省が噴き出していきました。と同時に、利用者や職員にとって「ありたい美容」の姿を思い描きながら、その構築に向かっていきました。大切に考えたポイントは以下の3点です。
1)利用者の心身に「高齢化・重症化・医療度増加」など様々な経年変化が生じていきます。利用者のペースに配慮しながら、ゆったりと安全安楽にヘアカットを受けることができるように、少人数での実施に整えます。
2)髪を切ることだけを目的にするのではなく、美容室に出かけ美容師とのふれあいを感じながら、ヘアスタイルを通して、おしゃれを楽しみ喜びを感じられるように、ゆったりとリラックスできる環境づくりを心がけます。
3)利用者本人が言葉でヘアスタイルの希望を伝えることが難しい場合、職員の意見のみで進めることはせず、利用者本人の好み・家族の要望・日中のポジショニング・動き・髪質・肌質などを丁寧に受けとめ、すぎなみ様のアドバイスを受けながらどのようなヘアスタイルが良いのかを総合的に考えるようにします。

訪問美容の実践紹介

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訪問美容の実践紹介

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訪問美容の実践紹介

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3.訪問美容の実践紹介

 現在では、すぎなみ様のご尽力により利用者の個性が輝くヘアスタイルを、カットとブロー仕上げで実現できるようになりました。無条件に短髪に固執することなく、ナチュラルでエレガントなヘアスタイルをめざし、また「美容室へのお客様」として丁寧にお迎えし、美容中の会話(声かけ)を大切にしています。利用者・家族の思いを受けとめ、美容師と職員との意思疎通を図りながら、利用者ニーズに即した美容時間を送っています。それはまさしく、少人数制で「病棟に美容室がやって来た」のコンセプトのもと、ゆったりとコミュニケーションを楽しみながらのカットです。また、病棟内に季節の飾りや看板を設置し職員も美容ユニフォーム(Tシャツ)を着用するなど、創意工夫を凝らしながら美容室空間を作り出しています。


<施設職員の役割>


1)すぎなみ様との連絡調整は、全体窓口1名(療育長)・病棟窓口1名(療育主任)を配置し、年間実施日の立案や急な変更などにも臨機応変に対応できる体制をつくっています。また、病棟内美容係2名(療育士)がヘアカタログの作成・更新や必要物品の準備など細々とした手配を行ないます。ひとつの病棟は1回につき5~10名の利用者、ひとりあたり隔月(原則)で15~20分間の美容時間を設定します。当センターには、すぎなみ様7名が1~2名ずつのローテーションで訪問して下さいます。
2)一日の主な流れは、美容室準備・カット・入浴・(ブロー仕上げ)・美容室片付け・ミニミーティングとなり、すぎなみ様・職員と連携協働の下で進めていきます。
3)美容室アシスタントとして、職員1~2名・(ボランティア1名)を配置します。職員は、すぎなみ様と利用者の「橋渡し役」として双方に必要な情報を正確に伝えながら、利用者が心身共に過度に緊張することなく美容時間を楽しむことができるように細やかに支援します。ボランティアが入る場合には美容室内の物品準備や清掃だけではなく、利用者への声かけなどでリラックスできる雰囲気づくりに関わります。
4)すぎなみ様のお支度や休憩室を確保します。椅子とテーブルを置き、実施後は水分補給などができるように配慮し、ロッカーには私物を置くことができるようにします。
5)美容代金は利用者の口座引き落としによる自己負担です。
6)美容に必要な物品は、基本的にすぎなみ様がご準備・ご持参下さいますが、感染対策上、タオルやケープ類のクリーニングは当センターが行います。また、すぎなみ様の健康チェックや必要に応じた器具の消毒・感染予防衣の着用・個人情報保護に関することなど、一連のルールは「覚書」としてまとめています。
7)美容に必要な基本情報として「利用者名・動 きの特徴・関わり方の配慮・なりたいヘアスタイル・地肌トラブルや髪のお悩み」などを「個別のヘアカタログ」や「ヘアケアカード」、また「申し送りシート」などにまとめ可視化します。
8)家族には、実施後に「美容室だより」を発送し、カットの様子(写真にて)とすぎなみ様や職員からのコメントも掲載しています。
9)美容終了後に「ミニミーティング」を必要に 応じて実施し、反省や要望など、また利用者・家族・職員からの感想や評価などを伝えあい、日々の情報交流を行ないます。

訪問理美容師の高い専門性

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4.訪問理美容師の高い専門性

 当センターで訪問美容を導入した結果、ひとりひとりの利用者の美容時間にゆとりが生まれました。美容を楽しみに待つ・当日は早々と美容室に向かう・美容中に穏やかな表情になる・カットした後のヘアスタイルに声がかかる…など顕著な変化を見せる利用者の様子が職員の喜びにもなっています。先述のように、障害や高齢による不便さがあっても、病気療養の中にあっても、ひとりひとりに日々繰り返される生活が単調なままで過ぎることなく、ある時には生活の潤いに、又ある時には生きる楽しみにという「アクセント」をもたらすものとして、それぞれの暮らしに調和する美容福祉の存在は必要不可欠です。今後ますます求められていく訪問理美容において、その担い手としての訪問理美容師の高い専門性について次に考察いたします。


<パーソナルスペースと密接な仕事>


 当センターでは、改善途上ではありますが多くの反省を踏まえ、新しい美容スタイルの構築に向かって着実にありたい姿に向かって歩むことができています。すぎなみ様の高い専門性に依るところが大きいと実感しています。相手のパーソナルスペース(見えない縄張り)に入りこまなければならない職業という意味では美容師と医療・介護職は類似しています。両者の専門性とは何を意味しているでしょうか。すぎなみ様の高い専門性に直接触れる機会をいただいたことで、職員の目標としても位置付けたい専門性が見えてきました。

すぎなみ様に見る「11」の専門性

ご訪問時の身分証をカードホルダーに


すぎなみ様に見る「11」の専門性

美容室は楽しい雰囲気に


すぎなみ様に見る「11」の専門性

美容ユニフォーム(お揃いのTシャツ)


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<すぎなみ様に見る「11」の専門性>


①笑顔と明るさ…当センター内で出会う誰に対しても穏やかで明るい表情で接して下さいます。仕事モードへと完璧に切り換えがなされています。
②優しさと謙虚さ…利用者の「自己選択と自己決定」を尊重し、必ず利用者本人に声をかけて下さいます。職員の主観が前面に出ているような場面では、静かに利用者の代弁者としてコメントを下さいます。
③自己研鑽…専門的な知識や技術を利用者ひとりひとりのヘアカットやスタイリングに還元して下さいます。また利用者の心身の特徴を考慮した関わり方やカットの仕方などについて、随時ミーティングや勉強会を開催し、「すぎなみ様チーム」としてのボトムアップを重視して下さいます。
④情報収集と発信…利用者の非言語的なサインはもちろん、職員の質問や相談事を丁寧に受けとめて、必要なアドバイスをわかりやすくタイムリーに返して下さいます。報連相の基本は、伝える努力と伝わる工夫を怠らないことなのだと感じています。
⑤想像力と創造力…美容の時間を待ちわびていた利用者・カットをしながら筋緊張がほぐれウトウトしている利用者・鏡の中の自分を嬉しそうに見つめる利用者、そのひとりひとりの思いを推しはかり寄り添い、より豊かな美容環境づくりを担ってくださいます。
⑥協調性…すぎなみ様のチーム力の特徴は、微笑ましいだけではなくお互いに認め合い補い合っている連携協働の姿にあります。また、様々なタイプの職員にもケースバイケースで対応して下さいます。専門職同士の信頼関係の構築こそが利用者の立場で美容を支援(保障)することであるという認識の下、「慣れあいになってはいけない・カットの仕上がりに妥協があってはならない」と、いつしか職員の考え方も向上しています。
⑦関心・好奇心…重症心身障害児(者)の生活支援は個別性が高く多岐にわたります。声のかけ方・触れ方・移動の仕方などに「なぜ?」という意識向けを行ないつつ、その根拠の存在を大切にしてくださいます。根拠を踏まえて利用者ひとりひとりに合わせたポジションでのカットをして下さいます。
⑧持続力と継続性…6つの病棟には担当制に近づけた美容師配置を続けて下さっています。多くの関わりの中ですぐに結果が出ないことが多い現場では、病棟や利用者のタイプを考慮したベストマッチングとなっており、双方にとっての安心感となっています。
⑨豊かな感性…当センターに滞在される時間のために、その前後では心の容量を広げるためにご自分の時間を有意義に過ごされているように思います。プライベートタイムのあり方が訪問美容の土台を支える一つになっているのではないでしょうか。
⑩サービスマナーの実践…当センターでは接遇にも力を注いでいます。利用者の人権尊重はもちろんですが、コミュニケーションスキルの向上・場に合わせた身だしなみ・適切な言葉遣いなど未熟な点が多々あります。すぎなみ様の言動からサービスマナーの原点を学ぶことができます。利用者ひとりひとりをお客様としてお迎えするサービスマナーとして、表情・声の大きさや言葉選び・お辞儀の仕方・間の取り方などは大変参考になっています。また、福祉施設という訪問場所を考慮し、華美になりすぎず清潔感のある服装やアクセサリーなどは安全面からもご配慮いただいているかと思います。それでいて美容職としての華やかさを持ち合わせ、施設の暮らしに彩りを添えていただいています。そして何よりも利用者の「自宅にお邪魔させていただく」という謙虚な姿勢こそが、訪問職としてのマナーの出発点であると気づかされます。
⑪感染予防対策…当センター利用者は「体力・抵抗力・免疫力」の全てにおいて弱者であると言えます。ひとたび感染症に罹患すれば長期臥床により生活の質が低下します。外から感染症を持ち込まない・外部へ持ち出さない(媒介しない)ための配慮が必要です。病棟に入る前の手洗いやうがい、また履き物やエプロンなどの細部にまで、細やかな感染予防対策にご協力いただいています。

すぎなみ様に見る「11」の専門性

リゾート気分の美容室


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5.今後に向けて


 すぎなみ様の訪問は、利用者のヘアスタイルのみならず職員の意識にも変化をもたらしました。これまではあきらめていた髪の長さやスタイルが可能となり、日常のケアにもブローセットを取り入れた丁寧な身だしなみを心がけるようになりました。
 また、シャンプーやブラシなどにも配慮し、より良いものを揃えるなど、暮らしを豊かにする確かな視点として美容が息づいています。
 中長期的には、男性利用者に現在実施している理容スタイルの見直しにも着手して行きたいと思いますし、当センター内に「どなたでもの美容室(仮称)」を新設したいという大きな夢を描いています。
 利用者のヘアスタイルはその利用者のものであり、職員主導に陥らず利用者主体を大切に「美容」を通してより豊かな生活支援へと成長させていきたいと思います。
これからもすぎなみ様と共に……。

理美容福祉の必需品
  • すいコ〜ム
  • ハッピーシャンプー