登録理美容師

「問診票」に基づく訪問美容の実際例
佐野美恵子 山野美容芸術短期大学兼任講師・美容福祉師

佐野美恵子=山野美容芸術短期大学兼任講師・美容福祉師

私がどのように問診票を作成し、それに基づく訪問美容を実践しているかについて報告し、みなさまのご意見を伺いたいと思います。

私が訪問美容を始めた主なきっかけは、私の200人以上いるお客様のなかから高齢化して私のサロンに来られなくなって、在宅か施設に入られたお客様が出てきた時でした。
このようなサロンにお見えになれないお客様を訪問して美容をして差し上げたらどんなに喜ばれるだろうかと考えていた時、山野さんの美容福祉技術講習を受講して、「美容福祉師」と認定していただき訪問美容を本格的に始めました。その結果、美容師としてより「美容福祉師」として訪問する方が信頼されるということを強く感じています。

訪問美容にあたって2人のケアマネージャーに問診票の提供をお願いしました。一人は「守秘義務がありますので提供できない」といわれましたが、もう一人の方は、「利用者に対するサービスの共有という意味で必要なことです。利用者の状態をよく知ってもらってから伺う方が、利用者の安全を守ることになるからです」と言って快く提供してくれました。この件については、情報を提供すること自体でケアマネージャー失格という意見もありますので、どちらが良いとは言えません。
私が訪問するお客様は20年、30年という長い信頼関係がある方が多いので、本人、家族から必要な事項は直接お尋ねすることができるようになりました。ケアマネージャーには「こういう場合はどうしたら良いでしょうか」と聞く形で情報を収集してきました。
私が担当した1人のお客様のケースを紹介する形で説明していきます。

<問診票>
〔お客様情報〕 女性、89歳、夫婦で生活。杉並区在住(私は杉並区在住ですので地域福祉を目標にして杉並区内の訪問美容を重視しています)。要介護=2。(「利用者様」という呼称も考えましたが、私にとっては長年のお客様ですのでお客様情報という呼び方にしました)。
〔コミュニケーション〕 意思の伝達=単純な要求はできる。話の理解=大部分はできる。視力=大きな字は見える。聴力=静かな場所なら聞こえる。
〔お客様履歴〕 病歴=14年前に大たい骨骨折で手術、骨粗しょう症、股関節症。生活歴=茶道教室週2回などを開いてきた。現在は夫婦2人での生活を家族・ヘルパー派遣で援助。職業歴=茶道教室を約20年主宰。家族=現在2人暮らし。同区内に娘さんが居住。人生観=現在の夫婦2人の在宅生活を継続していきたい。趣味=茶道。社会との関わり=現在、社会との関わりはほとんどない。
〔作業容態〕 背もたれがあれば椅子での作業可。
〔ADL〕 尿意=なし。便意、失禁=あり。排尿後の後始末=自立。方法=トイレ、オムツ。入浴・洗身=全介助。方法=自宅風呂。起き上がり、立ち上がり=何かにつかまれば可。移乗=自立。方法=杖、歩行器。
〔健康状態〕 皮膚、頭皮=異常なし。爪(厚爪)、褥そう、拘縮、麻痺、疼痛=なし。睡眠=良。
〔精神状態〕 現状認識=可。記憶状態=昔の記憶。物忘れ=ひどい。認知症=中程度。徘徊、暴力、収集癖、異食=なし。妄想=被害妄想あり(こうなったのは夫のせい、娘のせい)。幻覚、性的迷惑行為=なし。

以上の問診票に基づいて、次のような訪問美容カルテを作成しました。

訪問美容カルテ
〔お客様情報〕 氏名=M.K様
〔実施日〕 14:00~16:00。月曜日か木曜日希望
〔実施場所〕 自宅(リビング、浴室使用)
〔作業上の注意点〕 ・当日訪問前に確認の電話を入れる。・認知症状の特徴を理解しておく。・第三者が同席していること。・施術時には必ず声かけをする。・消毒用エタノール使用。・照明、室温、身体をささえるための資源の確認。・尿もれへの対応、対策。・足元のむくみ、冷え、転倒など身体面への配慮。一部身体介助、見守りを行う。・シャンプー時はイヤカバー、シャンプーハット使用(目・耳の保護)。・お湯の温度調整。・移動時、歩く時には余分な敷物、置物は片付ける。・時々水分補給して体調を整える。・体力の消耗などへの配慮。・毛くずの処理、衛生面を充実。・本日の施術メニューを確認しながら領収書を渡す。・換気を十分に行う。・お茶のおもてなしを大切に受ける(本人のプライドを守る)
〔作業手順〕 施術場所を決める=テーブル、椅子、床敷シート、足元の踏み台、鏡、美容道具一式など配置する。カット=通常のカット方法で行う。ワイヤー入りカットクロス使用、毛くず処理用ビニール準備。シャンプー=浴槽使用。前かがみでシャンプーを行う。着装したシャンプークロスの前の部分を浴槽に入れる。シャワーのお湯の温度の確認。洗い場にマットを敷く。その上に椅子を置き、座った状態で行う。セット=ハンドドライヤー、オイルアイロンを使用。仕上げには香りのあるヘアスプレーを使用(本人の希望)。料金=本人に請求、ただし家族・関係者の同席が必要。

以上のように「問診票」に基づいて作成したカルテに添って施術することによって、髪を整えて差し上げるだけでなく、声掛けもお客様の人生のあゆみに寄り添った言葉をおかけすることができるのだと思います。
そしてこのお客様の例ですと、茶道の先生として生きた経験から、お客さまにはお茶を差し上げることが当然の礼儀と思っているわけですから、終わってから「お茶をどうぞ」と言われた時、忙しいから断るということではなく、素直にいただくことがそのお客様のプライドを尊重することになるのだと思います。
訪問美容とは技術に加えてお客様の人生と日常生活に自然体で寄り添うことだと思います。
以上です。ありがとうございました。

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